第1講 社会福祉とは何か

それでは、これから「社会福祉ことはじめ」の講義を始めていきたいと思います。

本講義「社会福祉ことはじめ」は、初めて福祉を学ぶ人を対象とした講義となりますので、まずは、そもそも社会福祉とは何なのかという所から説明していきたいと思います。

今回の講義の目的は、初めて社会福祉を学ぶ人が社会福祉について色々と勉強していくための第1段階として、社会福祉について大まかなイメージをつかんでもらうことですので、今回の講義では学説や厳密な定義などには踏み込まず、大まかな内容にとどめて説明していきたいと思います。

まずは「社会福祉」について説明する前に、そもそも「福祉」とは何かということから説明します。

漢字の意味としては、「福」も「祉」も両方とも「幸せ」を意味する漢字のため、漢字から意味を考えると、「福祉」は「幸せ」という意味になります。

また、「福祉」はwelfareの訳語としても使われますが、welは「良い」、fareは「暮らし」という意味ですので、welfareは「良い暮らし(生活)」を意味します。

したがって、「福祉」は、「幸せ」や「良い生活」といったことを意味する言葉になります。

それでは、「幸せ」や「良い暮らし」とはどのようなものでしょうか?

それは人それぞれで異なります。例えば、趣味にお金と時間を費やすことができること、子どもを産んで育てること、働くのは必要最低限にしてのんびりと過ごすこと、やりがいのある仕事に没頭する事などなど…。

そのうちのどれが正しくて、どれが間違っているというわけではありません。Aさんにとっての幸せがBさんにとっても幸せとは限りません。そのため、幸せや良い生活といった「福祉」は人それぞれ異なるということになります。

そうすると、何がその人にとっての福祉(幸せ/良い暮らし)かは本人にしかわからないので、各個人や各家庭がそれぞれ自分にあった形の「福祉」を追究していく必要があります。

そのためには、自己責任によって私生活を管理することができる「強い個人」である必要がありますが、そのような「強い個人」であることは、全ての人が必ずしもできるとは限りません。

例えば、病気になって働けなくなった上に治療費がかかって貧困に陥ってしまうことや、障害によって身の回りのことができなくなってしまうことなど、(自己責任で私生活を管理しながら幸福を追求するといった)強い個人ではいられなくなるような生活問題が生じる場合があります。

そのため、各人の福祉(幸せ・良い暮らし)を実現するためには、貧困や疾病、障害などの生活問題に対応できるような社会的な仕組みや、生活問題が実際に起きた時の社会的支援などが必要になります。

そしてその1つが、「社会福祉」と呼ばれるものになります。

ようやく「社会福祉」という用語がでてきましたが、この用語は、幸せを追求するための援助活動(ソーシャルワークなど)や仕組み(社会保障制度など)といった幅広い内容を含む広い意味(広義)で使われる場合もあれば、社会保障制度の内の個別的な福祉サービスといった狭い意味(狭義)で使われる場合もあります。

なのでこれから「社会福祉」について説明しますが、「社会福祉」という用語は、論者や文脈によっていろいろな意味で使われる用語であることは念頭に置いた上で、1つの考え方として聞いて頂ければ幸いです。

社会福祉は、簡単にいうと「社会生活上の『生活問題』に対して、『個別的に』行われる援助活動」のことです。この定義は私なりの仮の定義ですが、ポイントは2つあります。

1つは、「生活問題」を対象にするということです。例えば、行動を起こしたいがどうしてもやる気が出なくて悩んでいるなどの「心」の悩みは、心理学(カウンセリングや心理療法など)や宗教学、哲学などが専門とする領域になります。それに対して社会福祉は、例えば、祖母が認知症を患ってしまい、祖母の世話をする必要があるが、自分は仕事をしているので世話ができず、かといって仕事をやめてしまっては貧困に陥ってしまうので、生活をするのに支障をきたしてしまうといった「生活問題」を専門とする領域です。

ただし、「生活問題」なのかそれとも「心」の問題なのかの区別が難しい場合もあります。例えば、いじめの問題は一般的には「心」の問題と思われることが多いですが、いじめをする側の子どもの家庭が経済的困窮や祖父母の介護などでストレスの高い環境で、それが原因で学校ではいじめの加害者になっているとすれば、単に「心」の問題といえるでしょうか?生活問題という要素もかなり強いといえるでしょう。

このように、実際にはどこまでが「生活問題」で、どこまでが「心」の問題なのかについては、明確に区別できなかったり、両方の問題であったりする場合も多いので、あくまでも大まかな区別として理解していただければよいと思います。

そして2つ目のポイントは、「個別的」な援助であるということです。例えば社会保障制度の年金制度を例にすると、年金は、保険料の支払期間や支払った額などに基づいて支給される金額が自動的に決まります。個別の困りごとなどは考慮せず、予め決まっているルールに則って支給対象や金額が決まるという意味で、社会保障は「画一的」な援助の仕組みであると言えます。

それに対して社会福祉は、個別の事情に応じて支援を行います。例えば、祖母の介護の問題について、どのようなことで介護が必要なのかや、家族はどの程度手伝えるのか、その家や地域の環境はどうなっているかなどによって、必要な支援は異なってきます。そのような事情を考慮して「個別的」に支援をすることも、社会福祉の特徴です。

それでは、そのような社会福祉の支援は、どのように行われるのでしょうか。

詳しい支援方法については、今後の講義で説明するので割愛しますが、1つだけ特徴を説明すると、社会保障制度や福祉サービス、相談機関などといった様々な社会資源を用いて支援をするということです。例えば先述の祖母の介護であれば、通所サービスやヘルパー、施設などのサービスにつなげるといったことが考えられます。

ここまでの説明は、私なりの解釈を基にした説明となりますので、今度は『生活支援の社会福祉学』という本に書いてある社会福祉の2つの特徴を基に、おさらいと補足をしたいと思います。

第1の特徴は、「社会的にバルネラブルな状態にある人々の生活支援ニーズをもつ多様性、複雑性、高度性に対して個別的(パーソナル)に対応する施策であるということ」です。

これは簡単に言うと、既に説明した通り、社会福祉は個別的な援助であるということです。ちなみに「社会的にバルネラブルな状態」とは、簡単にいうと、貧困や病気、障害、高齢などといった、社会的に不利になりやすい状態のことです。そのような人に対して、個別的に援助をするということが社会福祉の特徴の1つになります。

第2の特徴は、「社会福祉には、それを利用する人々のもつ多様な非対称性、低位性、脆弱性などに起因する生活支援ニーズに対応するために、一般生活支援施策の動員を含め、生活の全体性統合性を視野に入れ、包括的総合的な対応が要請されるということ」です。

簡単にいうと「生活の全体性統合性」を視野に入れて支援を行うということです。「生活の全体性統合性」を視野に入れるとはどういうことでしょうか?それは例えば、祖母の介護の例でいえば、自分が仕事を辞めてしまえば経済的になりたたなくなり、かといって介護なしでは祖母が生きていくことはできないので、祖母に必要な世話をしつつ、経済面も何とかする方法を考える、といったことです。

端的に言えば、祖母の介護を自分がすれば仕事ができなくなり収入が途絶えてしまうといったような、「あちらを立てればこちらが立たず」の状態を何とかすることと言えます。

以上が、社会福祉についてのおおまかな説明になります。

最期に今までの話をまとめると、「社会福祉」は以下のような特徴があると言えます。

「生活問題」を対象とした援助であること。

「個別的」な援助活動であること。

「生活の全体性・統合性」を視野に入れた援助であること。

・様々な社会資源を活用して行われる援助であるということ。

・文脈などによって、広い意味(広義)で使われたり、狭い意味(狭義)で使われたりする用語であること。

以上のまとめをもちまして、第1回の講義を終わりたいと思います。

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